あまりにも悪質な偽装の数々
今月22日に発覚した阪急阪神ホテルズのレストランでの種々の偽装表示問題。それはつづいて発覚した傘下のリッツカールトン大阪での偽装も含めて極めて件数が多く、またバリエーションとしても多岐にわたる不正表示が長年行われているものだった。しかも、会見で示された各偽装(ホテル側の説明によれば"認識不足"による"誤表示")の弁明は聞くに堪えない、往生際の悪い言い訳としか言いようのないものだった。
たとえば「トビウオの卵をレッドキャビアと称して提供」「"手作りチョコ"と称して既製品を使用(=言い訳:調理場でコーヒーリキュールを加える「ひと手間」に注目して手作りと称しても問題ないと思った)」(以上阪急阪神)「納入元の小規模農家を"農園"と称し、無断で顔写真まで利用して付加価値を高めていた」(六甲山ホテル)「"自家製パン"と称して既製品のパンを提供」「生絞りフレッシュジュースと称してストレートジュース(一部説明ではフレッシュジュースを冷凍保存したもの)を提供」(以上リッツ)などなどだ。
しかしどうもこの問題、二転三転するマスコミ報道が見苦しくてたまらない。本当に食品のこと何も知らない記者たちが報道しているのだということがよくわかる。断言するがこの一部では「一流ホテル」とまで報道される(実際ホテルとしてのランクはあまり高くないのだが) 某ホテルでの食事が美味しいと思ったことはないし、多少舌の肥えた人たちや飲食店でバイトをしたことがある人なら素材の多くが冷凍品や冷凍食品であることに気付いていたのではないだろうか。その店に通っているひとたちは割り切って食べていて、その店に行ったことがない人たちが「許せない!!」と声高に怒鳴っているのにはどうも違和感を感じてしまう。
この報道のさなか、多くの報道機関が不適切な表記をしていた。本記事の目的はそこにないためあえて名指しを避けるが、曰く、「築地市場で競り落とされる冷凍エビの価格は…」(パッケージの決まっている冷凍品は相対取引であり個体によって価格の異なる生鮮品のようにセリは行わない)、別の新聞では30年も前の図鑑からエビの写真を転載していたが、その写真は撮影のため薬品標本にされたもので店頭に並ぶ姿とは全く違う色をしていた。別の新聞では偽装の内容まで間違って報道していた。「芝エビのチリソースに実際にはシロエビを使っていた」と。これは全く種類の違うエビで、ありえない。第一シロエビのほうが高いうえに、生食向けで加熱すると身が溶けて食感が損なわれてしまうのでエビチリには絶対に使わない品種だ。どうやらマスコミはコンスタントに現れるあら捜しゲームの新たな標的を見つけてしまったようだ。この手の報道は事態の深刻さに関わらず読者・視聴者が飽きてもしばらくつづくだろう。
エビの問題はちょっと別。
そんななかでひときわ注目を集めているのが料理名に実際と異なった品種を表示していたエビの問題だ。
エビに関してはちょっと事情が複雑である。
阪急阪神ホテルズ虚偽表示 出崎社長、偽装を否定し誤表示と強調
"しかし、天然の「シバエビ」とうたって、養殖で外国産の「バナメイエビ」を使っていたことも判明した。
これについて、ホテル側は、「仕入れ業者にそもそもシバエビの発注自体をしたことがなかった」と話している。
森本正伸常務は「(発注段階で『バナメイエビ』と発注している。メニューに『バナメイエビ』と表記すべきで、偽装ではないのか?)いえ、調理の担当の者が、『これをシバエビと表示していい』という認識をしていた」と述べた。" (24日阪急阪神ホテルの記者会見)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00256524.html
リッツ・カールトン大阪もニセ表示…車海老など
"阪急阪神ホテルズ(大阪市北区)が運営するレストランなどがメニュー表示と異なる食材を使用していた問題で、グループ会社の阪神ホテルシステムズが運営する「ザ・リッツ・カールトン大阪」(同)は25日、「車海老えび」との表記で安価なブラックタイガーを提供するなどしていたことを明らかにした。同ホテルによると、阪急阪神ホテルズの食材偽装を受けて22日から自主的な調査を実施。エビの虚偽表示があったのは中国料理レストランで、「芝海老」としてバナメイエビを使用していたこともわかった。"
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131025-OYT1T00562.htm?from=popin
札幌のホテルでもエビ誤表示か…メニュー名変更
"札幌市豊平区のルネッサンスサッポロホテルは28日、ホテル内のレストランで提供しているエビを使った料理で、誤った表示をしていた可能性があるとして、本格的に調査する方針を明らかにした。
他社の阪急阪神ホテルズ(大阪市北区)のレストランなどで表示偽装が発覚したことを受け、調査を進めていた。
ルネッサンスサッポロホテルによると、調理担当者や仕入れ担当者に聞き取りをしたところ、中華料理のメニューで、食材のエビを「大正エビ」「芝エビ」と表示していたが、別種のエビだった可能性が高いという。
同ホテルは「担当者がエビの種類をはっきりと認識していないまま提供していた可能性がある」として、同ホテルはメニュー名を変更したほか、利用客への返金を検討する方針だ。他にも誤って記載した表示がなかったかどうか調べる。"
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131029-OYT1T00186.htm?from=tw
バナメイエビを「芝エビ」、各地で不適切表示
幌市内の3ホテルが29日、それぞれホテル内のレストランで、メニュー表示とは種類が異なるエビを使っていたと明らかにした。いずれも「誤表示だった」としている。
ルネッサンスサッポロホテル(札幌市豊平区)では、中華料理店のメニューに「大正海老えび」「芝海老」と表記したエビが、「バナメイエビ」や「ホワイトタイガー」だったと明らかにした。既にメニューの料理名を変更した。表示は2004年から続いており、原田博総支配人は「営業開始時の中国人総料理長が大きいエビを大正海老、小さいエビを芝海老と扱ったのが慣習となった」と説明している。
札幌プリンスホテル(札幌市中央区)では今年4~6月、レストランなどのメニューで、バナメイエビを芝エビと表示していた。プリンスホテル(東京)管理部は「調理担当者がバナメイエビの日本語名を芝エビと思いこんでいた」としている。両ホテルとも利用客には返金する。
札幌グランドホテル(札幌市中央区)も、中国料理レストランのメニューで「大正海老」と表示しながら、別のエビを使用していたとホームページで発表した。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131029-OYT1T00674.htm?from=popin調理責任者、食い違い認識…阪急阪神ホテルズ
大阪新阪急ホテル(同)の調理責任者は「業界の慣行では、料理名を中国語から訳す際、小ぶりのエビのことを『芝海老』と表現するという認識だった」と釈明したという。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131028-OYT1T00937.htm?from=popin
「担当者がエビの種類を認識していなかった」「発注段階ではバナメイエビとして発注したが、それを芝エビと表記してよいという認識だった」などと、消費者からすれば到底理解しがたい発言がつづいているが、無理もないことだ。なぜかを説明する前に注目してほしいのがもう一点、見て分かるのは偽装の大半が「中華料理店」で行われていることだ。じつはこれが業界の独特の慣習である。
※11/11追記 リファレンス分析などをするうち、この記事を読んでくださる方のなかに「バナメイエビがどんなエビなのか」知りたくてやってきてくださる方が多くいることがわかってきました。簡単に解説しておくと「クルマエビ科」(←これはいちばん大きなくくりなので、おなじクルマエビ科のクルマエビやブラックタイガー、芝エビとはぜんぜん違うエビです。サバもマグロもカツオもサバ科ですけど味も見た目もぜんぜん違う魚ですよね。)のやや小ぶりなエビの一種で、メキシコや中南米が原産ながら生育が早く育てやすい(生育が早いと歩留りも良いですので養殖業者にも安心ですよね)ということから70年代以降急速に普及。日本でもブラックタイガーよりさらに安いということから業務用を中心に人気となり、こうした需要にこたえる形で中国や東南アジアでも大量に養殖されるようになりました。一説には現在日本で消費されるエビ類のうち9割をブラックタイガーとバナメイで占めているとも言われています。誰でも食べたことがあるはずの、知らぬ間に一般化してしまったエビです。身が程よく柔らかいので加工がしやすく、ほかの品種と比べると味はやや旨みに欠けることから、冷凍前にアミノ酸などの調味料をつけたり、保水剤につけて人工的に「プリプリの食感」をつくりだしているものもあります。今回脂肪を注入した牛肉というのも話題になっていますが保水剤につけたエビが話題になってないのはなぜでしょうねえ?外食をしていると保水剤のエビってけっこう街中にあふれかえっているんですが。
メニュー表示 業界の慣習が背景か
大阪の「阪急阪神ホテルズ」が、メニューの表示と異なる食材を使っていた問題で、このうち、「芝エビ」と表示して別の同じような大きさの安いエビを使っていたことについて、中国料理店でつくる団体では、エビを大きさで分類する長年の慣習を引きずっていたのが背景にあるのではないかと指摘しています。
今回の問題で大阪の「阪急阪神ホテルズ」は、「芝エビ」を使ったとする中国料理のコースメニューの一品に「バナメイエビ」という同じような大きさの安いエビを使っていました。
日本中国料理協会によりますと、30年ほど前、日本と中国でエビの呼び方が違うため、全国の中国料理店で作る組合の呼びかけで、エビを大きさによって3つに分類することになりました。
この分類では、中国で「龍蝦」と呼ばれる大きなエビを「伊勢エビ」、次に大きい「大蝦」を「車エビ」や「大正エビ」、そして最も小さくむきエビという意味の「蝦仁」を「芝エビ」と表記するようになったということです。
このうち芝エビについては、10年以上前から漁獲量が減って仕入れ値が高騰し、代わりに同じような大きさでより安いバナメイエビを仕入れる店が増えているということです。
今回の問題について日本中国料理協会では、エビを大きさで分類する長年の慣習を引きずり、同じような大きさのエビを「芝エビ」という表記のままメニューに載せてしまったのではないかと指摘しています。
日本中国料理協会の山中一男専務理事は、「中国料理ではずいぶん前から芝エビよりも冷凍物のバナメイエビなどが広く使われるようになっている。長年の慣習とはいえ、誤った表示をすれば消費者を欺くことになり、残念なことだと思う」と話しています。
協会では今後、改めて全国の料理店に対し、食材の表示を適正に行うよう呼びかけることを検討しています。食材のエビ区別は困難
エビなどの甲殻類に詳しい京都大学白浜水族館の朝倉彰館長によりますと、「芝エビ」と「バナメイエビ」は同じクルマエビ科の全く異なる種類のエビで、顕微鏡で角の表面にある突起の数を見ると区別ができるということです。
見た目は、芝エビはほかのエビと比べて触覚が長く体が薄い灰色なのに対し、バナメイエビは芝エビより触角が短く、体は黒みを帯びているということです。
ただ、体の色などは育ち具合などで個体によって差が大きく、一般の人では見た目だけで区別するのは難しいということです。
また、エビの流通に詳しい愛知県の水産業者によりますと、芝エビは主に小さいサイズが流通し、バナメイエビは大きいサイズが主流だということです。
経験を積んだ水産関係者や専門家を除くと一般の人では区別が難しく、調理した状態では色や形も変わってしまうため、見た目での区別はさらに困難だということです。
芝エビは小エビ、大正エビは大エビのこと
ハッキリ言って日本の中華料理業界にとって芝エビとは小エビ、大正エビは体表面の白っぽい・赤っぽい大きめのエビ、車エビは体表面の黒っぽい大きめのエビという程度の認識しかない。伊勢海老も近縁種のロブスター(英語ではspinny lobster)と混同されている。だが、世界の言語から見ると日本語のようにエビを細かく品種でわけるのが少数派で、サイズやおおまかな種類で呼び分ける国は多い。
英語でもこの小エビにあたるのものをshrimp、中~大き目のエビをprawn、伊勢海老やロブスターなどをlobsterと区別している。フランス語やスペイン語ではもっと複雑だ。スペインで食べたシーフードパエリアには芝エビのような小エビquisquillas、甘エビgambas、車海老のような大きめのエビlongostas、手長エビlongostinosと4種類ものエビが使われていたが、それぞれ大まかな種類(カテゴリ)によって呼び名が違った。違う食材として認識されている証左だろう。
存在しない?大正エビ
じつは、「大正エビ」というエビはそもそも市場でつけられた商品名である。大正期、黄海で盛んに獲れるようになったコウライエビというエビを売り出すために、コウライエビではなじみがなくピンとこないというのでつけられた名だが、その後定着して同種の「クルマエビ科でクルマエビ・ブラックタイガーなど以外の、赤・白っぽい中くらい~おおぶりのエビ」の総称的に使われるようになってしまった。その間になんと、元の黄海の天然大正エビは今から30年ほど前に漁獲量が激減。乱獲のためとも言われるが現在ではこの「かつて大正エビと呼ばれたエビ」はほとんどが消費者の前から姿を消している。しかしながらそもそもが大正エビというのは特定の品種のエビを指す称ではないため、業界内では「大正エビと呼ばれるエビ」の内容が時代によって少しづつシフトしているのだ。現在では具体的には、ホワイト、ギニアピンク、フラワーなどと呼ばれる品種が便宜上、大正エビと呼ばれているようだ。
事態を重く見た日本中国料理協会は再度文書を発表。
「シバエビ」は小エビの俗称だった!中国料理協会表記統一へ
メニュー表示と異なる食材が全国で使われていた問題に関連し、「日本中国料理協会」(東京・陳建一会長)の加盟者間でも「シバエビ」が小さなエビの俗称として使われていたことが1日、分かった。
協会は10月31日付で、全国の料理人などの加盟者(約5000人)に対し、エビの種を問わず、サイズに応じて呼び方を変えるケースが多かった従来の慣習を改め、固有種の「シバエビ」以外は「エビ」か「小エビ」と表示するよう周知する文書を出した。協会の担当者は「料理人と消費者の間に認識のギャップがあり、協会として一つの指針を示す必要があった」と説明している。
協会によると、戦後から高度経済成長期にかけ、首都圏に中華料理店が相次いで開店。そこで修業した料理人が全国に散って技術を伝えた経緯がある。当時、東京・芝浦産のシバエビが多く出回っていたことから、小さいサイズのエビの総称としてシバエビが定着した可能性が高いという。関係者によると、1964年の東京五輪の頃から慣習として定着したようだ。
協会の文書によると、従来はエビのサイズが小さい順にシバエビ、クルマエビ(タイショウエビ)、イセエビと総称してきたが、今後、クルマエビやタイショウエビは「大エビ」とするほか、国産のみをイセエビと表示する。
また、牛肉については「和牛」「国産牛」「輸入牛」を明確に区別し、地鶏は「JAS法で生産方法、飼育方法、表示方法が定められている在来種由来血液50%以上の鶏」とするなど、メニュー表記の厳格化を訴えた。
まあこの記事で間違ってるのは「日本中国料理協会の加盟者間でも」じゃなくてそこを中心に業界では常識化してたってことなんですけど。
もちろん、これは業界内でも一部の話だ。大半の業者は呼称を正確化しようと努めている。上流から中間流通段階ではほとんど正常に取り扱われている。しかし、消費者の手に届く段階ではエンデバーやフラワーなどのなじみのない名前よりも聞き慣れた大正エビとしたほうが売れてしまうのが現状なのである。さらに、前述の中華料理店でのサイズ別呼称の習慣もあり、飲食店から「大正エビ」を求める注文も多い。いま、業界に求められているのはトレーサビリティの徹底や情報開示による消費者の安心の確保とともに、多岐多様にわたる各水産物品種の消費者への認知の向上で、消費者に正しい知識と、偽装表示を見抜くリテラシーを身に付けてもらうことではないかと思う。
たとえば今年、海老類全般の価格高騰をうけてにわかに脚光を浴びているのがアルゼンチンアカエビ。入手が難しくなってしまったボタンエビの代わりに回転寿司店などで人気となっているほか、加熱しても殻がしっかりしていて甘エビやボタンエビよりも身が加熱崩れしにくく、味もよいことから、イタリアン、フレンチ、スペイン料理、和食などでも大活躍している。昨今、「アカエビ」あるいは「アルゼンチンアカエビ」という名前をよく聞くようになったが、こうしたいままでなじみのなかった品種を代用品ではなく新商品として注目し、固有種として認識していく・普及していくことが大事なのではないかと思う。アルゼンチンアカエビはボタンエビとも甘エビとも違う魅力を持っていて美味しいエビなのだから、アルゼンチンアカエビのままでよいのだと、消費者も飲食業者も流通業者も胸をはっていこう。
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