オルフェーヴルやゴールドシップの父として知られるステイゴールドが2015年2月5日、急死しました。競馬に詳しくないのですが、この世界では精子を提供する父馬(いわゆる種馬)のことを種牡馬(しゅぼば)というそうです。ステイゴールドは、自身、競走馬として96年から2001年にかけて50戦7勝し、とくに引退レースの国際GⅠ香港ヴァースでは武豊の騎乗で優勝し有終の美を飾りました。のちに種牡馬として活躍、ナカヤマフェスタやオルフェーヴル、ゴールドシップ、フェノーメノ、レッドリヴェールといった有名馬が生れたそうです。
さて、このステイゴールドの訃報を伝える新聞各紙、見たところほぼ全紙が「種牡馬としてオルフェーヴルやゴールドシップを輩出」と伝えています。たとえばスポーツ報知、
ステイゴールドが急死 オルフェーヴル、ゴールドシップなど輩出
2015年2月5日20時9分 スポーツ報知
3冠馬オルフェーヴルや、現役GI・5勝馬ゴールドシップなどを輩出した種牡馬ステイゴールド(牡21歳)が5日、けい養先の北海道日高町ブリーダーズスタリオンステーションで急死した。
同馬は現役時、国内では日経新春杯、目黒記念の重賞2勝にとどまり、GI勝利はなかったが、01年に海外でドバイ・シーマクラシック(当時G2)を制し、引退レースの同年香港ヴァーズでGI初制覇。国内外で通算50戦7勝の成績を残し、引退した。
死因は不明で、現在調べている。
この「輩出」という言葉の使い方にちょっと違和感を持ちました。
辞書で引くと「輩出」は「人材が多く出ること」「人材が続いて多く出ること」などとあります。
人の場合、出身地や学校、門下から、あるいは家系から輩出するという表現は聞きますが、「親から」輩出というのはあまり聞きません。
試しに例文を作ってみました。
「鳩山由紀夫・邦夫兄弟を輩出した威一郎氏」
「七代目市川染五郎や松本紀保・松たか子を輩出した九代目松本幸四郎」
やはりどちらもかなり違和感があります。
これが、例えば「鳩山家からは威一郎より以降の世代でも由紀夫・邦夫らを輩出した」「松本幸四郎家からは市川染五郎や松本紀保・松たか子を輩出」などと、主語を家系に書き換えるとだいぶ違和感が軽減されます。(この辺、もしかすると馬と違って人間の場合はひとりの親から「多くの人材が」輩出することが少ないという生物学的な種の家族構成の違いもあるのかもしれません)
なお、調べたところ種牡馬に関しては過去にも別の馬に関して、親馬から「輩出」という新聞表現が使われていました。
(ところで辞書を引く限りでは「輩出」は自動詞で、「吉田松陰の教えた松下村塾の門下からは高杉晋作や伊藤博文、山縣有朋らが輩出した」などと、人材のほうを主語にするのが正しいようです。)
この件について早速ツイッターで三省堂国語辞典の編集委員でもある飯間浩明さん(@IIMA_Hiroaki)にも伺ってみたところ以下のような返答が。
「輩出」は、人材を多く出す場合に使いますが、「名馬を輩出する」などの例もありますね。さて「どこから」かについては、「厩舎が名馬を輩出」ならいいけれど、「親馬が名馬を輩出」は、たしかに違和感があります。@kenigooon オルフェーブルの父である種牡馬のステイゴールドが急死した…
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2015, 2月 9
ちなみに質問は
@IIMA_Hiroaki 飯間さんこんばんは。オルフェーブルの父である種牡馬のステイゴールドが急死したニュースで、「名馬を輩出した」という表現がありました。人の場合門下や家系からは言いますが親からは輩出したという表現を聞かないので違和感を持ったのですがこれ正しいのでしょうか?
— やけにごんぎつねがきになる (@kenigooon) 2015, 2月 6
@IIMA_Hiroaki ちなみに「輩出」を辞書で引くと「人材が続いて多く出ること」などとあり、人でない馬について述べること自体が本来的な用法ではないかとも存じます。ですが例えば「その仔馬からはオルフェーヴルやゴールドシップなどの名馬が輩出した」のほうが違和感がない気がします。
— やけにごんぎつねがきになる (@kenigooon) 2015, 2月 6
競走馬に関する報道では既に固定化した表現なのかもしれませんが、もっと適切な書き方があれば因習を打破してもらえればと思います。
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