絵本作家のかこさとしさんが88歳を迎え、自費出版した絵本を全国の図書館に寄贈していることが読売新聞で取り上げられています。
加古里子さん米寿、自費絵本を全国の図書館へ
藤沢市在住の絵本作家加古里子かこさとしさん(88)が、先月末の米寿の誕生日に絵本「矢村のヤ助」を自費出版し、全国約3200の公立図書館に1冊ずつ寄贈している。
助け合い、いたわりの尊さを描いた作品で、60年近く前の自作の物語が原作だ。「子供さん、親御さん、周りの方々のお助けがあってここまで来られた。恩返しと感謝の気持ちをお伝えしたい」と話している。
まだ田舎だった川崎…若き日の作品再び
加古さんは福井県出身。東大工学部を卒業して昭和電工に入社。川崎市にあった独身寮で暮らしながら、地域の子供会で自作の紙芝居などを披露したのが創作活動の原点だ。
当初は作家と会社員の二足のわらじを履いていたが、47歳で専業に。これまでに発表した作品数は600を超え、代表作の一つ「だるまちゃんとてんぐちゃん」(1967年、福音館書店)の「だるまちゃん」シリーズは累計約340万部の大ヒットを記録している。
寄贈する「矢村のヤ助」は、山奥にある矢村で、年老いた母親と暮らす親孝行のヤ助が、ワナにかかった山鳥を助けることから始まる。山鳥は若い女性に姿を変え、ヤ助と夫婦となって幸せに過ごしていたが、ある日、村を鬼が襲う――。
原作は、加古さんが1955年、川崎の子供たちのために作った。まじめに生きていても、天変地異はある。その時に互いに助け合ったり、いたわり合ったりすることが本当の愛情なのだと、忘れないでいてほしい。そんな思いを込めた。
当時の川崎はまだ田舎。わんぱく、おてんばな子供たちが、物語に聞き入り、涙を流してくれた。「『若気の至り』の作品だけれど、一生懸命作った」という思い出深い一作を寄贈書に選んだ。今月末には全国の図書館に届く予定だ。
今年でデビュー56年目。児童文化の研究家として大学の教壇にも立ってきたが、「終戦後は余生」と語る。特攻機で散っていった友人たちのように、「20歳で死ぬべきが、長く生かしてもらった」と思うからだ。加古さん自身は、近視のため軍人にはなれなかった。
「生活のためと、安易に軍人になろうとしていた自分の過ちを戦後に知った。子供たちには、自ら考え、正しい判断をできる人になってほしい」。この思いが、半世紀超の創作活動の根底にある。
小さなアインシュタイン…子供は「先生」
そんな加古さんにとって、子供たちは「先生」だ。同じ目の高さで作品を作ろうと観察するなかで、たくさんのことを教わった。「お金や名誉ではなく、ただ好きなことに向かっていく。こんなに純粋な興味への挑戦の仕方はない。『小さなアインシュタイン』です」
緑内障に腰痛。寄る年波には難渋するが、毎朝、家の前の掃除をし、午前と午後、百科事典や資料が並ぶ書斎で、3時間ずつ仕事に励む。「小さい時に読んだ本を子供と一緒に読めるなんて幸せ」。全国から届くそんな手紙が活力源だ。6月には、だるまちゃんシリーズ8作目となる新作「だるまちゃんとにおうちゃん」(福音館書店)が発売される。(矢吹美貴)
2014年04月17日 17時09分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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